江戸の”美味しい食”を考える-蕎麦


「おいしい浮世絵展」が7月15日~9月13日まで東京の六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで開催されています。会場そば.jpg
江戸の四大名物食といえば寿司、鰻の蒲焼、蕎麦、天ぷらです。前回は寿司と蒲焼を中心に江戸の食文化を紹介しました。今回も江戸の食文化を蕎麦から考えていきます。蕎麦.JPG江戸っ子の蕎麦好きはよく知られています。それだけに蕎麦の歴史は長いし奥も深い。

<そば屋の誕生>
日本人は古くから「そば」は食べていました。
縄文時代はそばの実をそのまま食べる「そば米」やそばの実を砕いてお湯でこねた「そばがき」として食べていました。
そばの実ご飯?.jpg
室町時代に「そばがき」「そば餅」として食べられたとの記述もあります。
その後、そば粉を麺状にして食べる事が始まり、江戸時代は「そば切り」と呼ばれました。
元々、「そば切り」は木曾で生まれ、信州や甲州などの村々では「そば切り」が売られていました。その信州や甲州から江戸に働きに来た人々によって「そば切り」の作り方が伝えられたと言われています。
そば打ち.jpg
江戸初期の「そば切り」について「料理物語」(寛永20年)は、「ゆでてから笊にすくい、ぬるま湯でさっと洗い、再び笊に入れ熱湯をかけて蓋をして蒸して出した」とあります。しかし時間がかかりそうです。

<けんどんそばの誕生>
その後、四代将軍家綱の寛文年間(1661~73)には「けんどんそば切り」という蕎麦屋が誕生し人気を呼んだという記録があります。※「異本洞房語園」
「けんどん」とは素っ気ないという意味。ともかく安い、早い、一杯盛り切りとしたそば。しかし「けんどん」と言う名称が「つけんどん(つ慳貪)」と言うイメージをもたらして衰退したとか?しかし今も「けんどん」の名に由来したものがあります。けんどん箱.png
出前の「けんどん箱」として名を残しています。

<二八そばと名前由来は>
元禄時代(1688~)には「二八そば」の看板を掲げた「そば屋」が登場します。
IMG_2778.JPG
「二八そば」の由来には二つの説があります。
▼小麦粉と蕎麦粉の配合説。
▼2×8=16文と言う価格説。
ちなみに日本銀行貨幣博物館では、
☆そば一杯の価格が16文=二×八(江戸中期~後期)※1文=25円×16文=400円。「かけそば」が現在の価格で350~400円程度。コメなどに比較して価格が比較的に安定していたとして江戸時代の物価の目安にしています。
しかし価格説が正しいというのではありません。はっきりしているのは“二八”という言葉の語感と響きが江戸っ子の“粋”に合ったという事。
また「夜鳴きそば」と言う夜に屋台で町を流しながら売るそばが増えていました。ちなみに落語「時そば」の屋台は鎌倉河岸(千代田区内神田)で商いをしていたそうです。
さらに早い調理法やカツオ出汁と濃口醤油などが合いまって「二八そば」は江戸っ子には無くてはならない食べ物になっていきました。

<江戸っ子の“粋”な食べ方>
だし汁を少し付けて食べるのが“粋”と言われています。二八そばと歌舞伎役者.jpg
何故?ネット情報に答えがありました。
【江戸っ子がそばを食べるときは、つゆをほんのちょっとしかつけませんでした…それが粋な食べ方。ジャブジャブとつゆにつけるのは野暮(やぼ)だとされました。しかし「死ぬまでに一度でいいから、つゆをたっぷりつけて、そばが食いてえ…」江戸っ子が痩せ我慢をしていたのは何故か? 理由は浅草地域にあった称往院(しょうおういん)というお寺のそばが、とても美味いと評判。しかし殺生を禁じカツオの出汁(だし)は使えず。代わりに、辛い大根の汁が使われていたのです。辛いつゆにはほんのちょっとつけるだけで十分。この食べ方こそがそばの“粋”な食べ方だ】とひろまったのです。

<そばの名店の誕生>
東京のそばの三大老舗と言えば「砂場」「藪」「更科」と言われています。江戸時代のそばの客筋は中流以下の庶民層。
◎高級そば屋.jpg
そんな時代に格子戸を持った立派なそば屋が誕生しました。「深大寺そば」です。
当然、客筋は上流階級(表店の主、両替商、札差…)それに歌舞伎役者もいました。そばに欠かせない薬味もワサビ、唐辛子、海苔、ネギと豊かになりました。ますますそば屋が増える事になり江戸はそばの町となったのです。
文化8年(1811)の「食類商売人」調査には、高級なそば屋も含めそば屋は718軒と記されています。
「藪そば」の元祖になる雑司ヶ谷鬼子母神の近くの藪の中の店「藪の蕎麦切」も流行っていました。また「ざるそば」の元祖となる「洲崎の蕎麦切」も蕎麦全書に登場しています。

<たかが蕎麦か?>
そばの味は、カツオ節と濃口醤油の普及により江戸の味となったのです。
高級そば屋?.jpg
そして「そば湯」も体に良いと町の庶民は飲用しました。そばにはビタミンやルチン、カロチン、アミノ酸などが含まれています。
江戸時代に武家に流行した病「江戸わずらい」がありました。現代で言う「脚気」と言えます。武士たちの精米された白米を中心とした食生活が「江戸わずらい」を流行らせたのです。原因は、ビタミンB1不足により脚気や心不全が起こるのです。
そば好きの江戸っ子は脚気には罹らなかったようです。

<そば屋と酒>
江戸時代、そばを味わう前に、ちょっと熱燗を一杯飲む事を「そば前」と言ったそうです。おやこチョコ.jpg
そういえば時代劇のそば屋のシーンでも飲み過ぎの客や主人公は見た事がないように感じます。
本草学者(博物学)の貝原益軒は「凡そ酒は温酒を飲むべし。熱飲は気昇る…陽を助け、気をめぐらすにしかず」と『養生訓』の中で書いています。
鬼平犯科帳ほか数々の江戸を舞台にした小説を書いた故・池波正太郎。師が好んだのが午後の散歩がてらのそば屋でのそばと酒。一人でゆっくりと熱燗を飲み長居はしない。
「そばと酒好き」なら江戸っ子の“粋な”、そば屋での振る舞いを忘れてはいけませんね。

記:202020年7月20日

<参考図書>
「すし天ぷら蕎麦うなぎ」著:飯野享一、「江戸の食ごよみ」、「江戸博覧強記」、「大江戸見聞録」「江戸諸国よろず案内」など。

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この記事へのコメント

青木繁
2020年07月21日 10:54
今度は江戸の蕎麦ですね。自分も大好きですから、面白く読みました。
ちょっとのだし汁で食べる粋な江戸の蕎麦の食べ方や、辛味大根のことも。
なるほどそうだったのですね。

また、割合は二八が一般的だったのですね。
でも十割蕎麦は田舎っぽく、うまくつなぐことができないボソボソしすぎるかもしれませんが、特に新蕎麦の時期だと香りいっぱいのお蕎麦という感じがして好きです。

蕎麦には一言うるさい人が多くて面倒な食べ物です。でも、それだけ日本人に愛されている食べ物ということです。蕎麦道場もいっぱいあります。

最後に絶品の蕎麦屋を教えてください。私は、最近のラーメン店めぐりよりも、お蕎麦屋さん探訪が好きです。見果てぬ夢を追いかけて、江戸ばかりでなく、全国を訪ねたいです。
小林成基
2020年07月21日 18:42
傑作揃いの江戸考ですが、蕎麦の蘊蓄は白眉!お見事です。とても楽しく、なるほど!と膝を叩きながら拝読しました。蕎麦、食いてえ。おっとその前に冷やで一献。たしかもらったばかりの八海山が・・・。この稿、知り合いに宣伝して良いですか。わけのわからない酔っ払いにからまれて面倒くさいことになるかもしれないけど。あまり有象無象が見るようになると、ご迷惑かもね。